【相続した不動産の売却】取得費の求め方、利用できる特例や注意点を解説
相続した不動産を売却した際、売却価格によっては譲渡取得税がかかります。この譲渡取得税は、相続した不動産の取得費によって大きな差があります。
不動産の取得費の求め方は複雑です。また、被相続人が不動産を取得したのが何十年も前だと、取得費を求めるのが不可能なこともあります。
相続した不動産の取得費の求め方について、わかりやすく解説します。
相続した不動産の取得費によって変わる譲渡所得税
不動産を売却したときにかかる譲渡所得税の金額は、その不動産の取得費によって変わります。相続した不動産の取得費とはどのような費用なのか、また譲渡所得税にどのように影響するのかを詳しく解説します。
相続した不動産の取得費とは
不動産の取得費とは、不動産を手に入れるためにかかった費用のことです。たとえば、購入費用、建築代金、仲介手数料などが取得費に含まれます。
相続した不動産の場合では「被相続人が取得したとき」と「相続人が相続して名義変更をしたとき」のそれぞれでかかった費用を取得費にすることができます。
取得費は、不動産を売却する際にかかる譲渡所得税の計算に影響を与えるため、正確な金額を出すことが重要です。
取得費によって譲渡所得税は変わる
相続した不動産の取得費によって、その不動産を売却したときにかかる譲渡所得税は変わります。
譲渡所得税とは、土地や建物などの資産を譲渡して利益が生じたときに納める税金のことです。譲渡所得税は、譲渡所得に税率を乗じて計算されます。
譲渡所得税=譲渡所得×税率
この譲渡所得は、譲渡金額から取得費・譲渡費用・特別控除額を除いて求められます。
譲渡所得=譲渡金額-取得費-譲渡費用-特別控除額
つまり、もし取得費を実際より少ない金額で算出してしまうと、譲渡所得金額が高くなり支払う税金も高くなります。過不足なく譲渡所得税を支払うためにも、相続した不動産の正しい取得費を確認しましょう。
所有期間は被相続人の取得時期を引き継ぐ
取得時期から売却するまでの所有期間に応じて、譲渡所得税を求める税率が異なります。
所有期間は、売却した年の1月1日現在で5年を超えていれば「長期譲渡所得」、5年以下であれば「短期譲渡所得」の2つに分類されます。よって、被相続人が5年を超えて保有していれば、相続した直後に売却しても「長期譲渡所得」に判定されます。
所有期間による税率は以下のとおりです。
所得の種類 | 長期譲渡所得 | 短期譲渡所得 |
所有期間 | 5年超 | 5年以下 |
所得税 | 15% | 30% |
住民税 | 5% | 9% |
復興特別所得税※ | 0.315% | 0.63% |
合計 | 20.315% | 39.63% |
※復興特別所得税:東日本大震災の復興支援策として2037年まで徴収される特別な所得税。
たとえば、譲渡金額5,000万円、取得費2,000万円、譲渡費用が300万円、所有期間は長期譲渡所得だとすると以下のように計算ができます。
税額=(5,000万円-2,000万円-300万円)×20.315%≒549万円
譲渡所得税、住民税、復興特別所得税の合計は約549万円になります。
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相続した不動産の取得費の求め方・確認方法
相続した不動産の取得費を求める方法や確認方法を解説します。正確に計算するためにも、しっかり把握しておきましょう。
取得費に該当するもの
相続した不動産の取得費に該当するものは、被相続人が不動産の取得時に支払った費用と相続人が相続するときの名義変更などにかかった費用があります。具体的な費用は、それぞれ以下のとおりです。
被相続人が不動産を取得したときにかかった費用
- 土地や建物の購入代金(建物の場合は代金から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた額)
- 登録免許税
- 不動産登記を司法書士へ依頼したときの報酬
- 不動産所得税
- 仲介手数料
- 売買契約書の印紙代
- 土地の造成費や測量費
- 立退料や移転料、訴訟費用
- 建物の取り壊し費用
- 契約解除違約金
不動産を相続して名義変更するときにかかった費用
- 登録免許税
- 不動産登記を司法書士へ依頼したときの報酬
- その他名義変更にかかった費用
なお、土地や建物を売却するときにかかった仲介手数料や測量費、売買契約書の印紙代、立退料、取壊し費用などは譲渡費用に該当します。
取得費に該当しないもの
不動産の取得や相続の名義変更に関わらない費用は取得費に該当しません。
たとえば、不動産に関係のない財産の相続手続きに伴った弁護士の報酬や不動産の代わりとして他の相続人に支払った金額などです。これらを間違えて取得費に含めてしまうと、本来の譲渡所得税よりも少なく納税されるため注意しましょう。
取得費を確認できる資料
相続不動産の取得費を知るためには、以下の資料が必要です。
- 売買契約書
- 請負工事契約書
- 領収書
- 納税証明書
探しても見つからない場合は、購入した不動産会社や売主に問い合わせしてみましょう。
どうしても資料が見つからない場合は、通帳の明細や住宅ローンの金銭消費貸借契約書から購入金額を推測する方法があります。
取得費がわからない場合
相続した不動産の取得時期が古いなど、調べてもわからない場合は売却した金額の5%を取得費にできます。
また、実際の取得費が売却した金額の5%を下回る場合でも、売却金額の5%を取得費として計上することが可能です。たとえば、取得費が不明な不動産を相続し5,000万円で売却した場合は、売った金額の5%である250万円を取得費にできます。
利用できる特例や注意点
相続した不動産の譲渡所得税を納めるにあたっては、節税につながる特例があります。特例の要件や注意点を把握してうまく活用しましょう。
取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、相続により取得した土地や不動産を売却した場合、相続税額の一部を取得費に加算できる制度のことです。相続税が課税されなかった人には適用されません。
特例を受けるための要件は以下のとおりです。
- 相続により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
取得費に加算できる相続税額は以下の計算式で求められます。
取得費に加算する相続税額=その者の相続税額×その者が譲渡した不動産の相続税評価額÷その者が相続した財産の総額
たとえば、Aさんの相続税額が300万円、譲渡した不動産の相続税評価額は6,000万円、相続財産の総額が8,000万円だった場合、
300万円×6,000万円÷8,000万円=225万円
Aさんは225万円を取得費に加算することが可能です。
空き家の3,000万円特別控除
「空き家の3,000万円特別控除」は、相続により取得した被相続人が居住していた土地や建物を売却する場合、一定の要件を満たしていれば譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。
この特例が適用されるためには、家屋と譲渡に関してそれぞれ以下の要件を満たしている必要があります。
家屋の要件
- 相続の開始直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
- 1981年5月31日以前に建築されていて、一定の耐震基準を満たしていること
- 相続時から譲渡のときまで事業・貸付け・居住用に使われていないこと
譲渡の要件
- 2016年4月1日から2023年12月31日までの間でかつ、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却していること
- 売却代金が1億円以下であること
- 親子や夫婦、生計を一にする親族など特別関係にある人に対して売ったものでないこと
不動産会社に相談して売却する
相続した不動産を売却するなら、不動産会社に相談することをおすすめします。相続不動産の場合は「特例が適用できるか」や「不動産の相続手続き」など最新の法令や注意点を把握しておく必要があります。
特に、特例の利用には期限があるため、手続きをスムーズに進めていかなければいけません。早いうちから不動産売却や相続の経験が豊富な不動産会社に相談すれば、余裕を持った手続きができるでしょう。
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