栗
2025/10/31
                    
                「栗、もらったよ」
そう聞くと、なんだか秋の通知表をもらったような気分になる。
うれしいけど、ちょっと身構える。
——だって、殻がね。
あの固いやつを前にすると、もう無心。
トンカチでもナイフでも、手段は問わない。
“剥く”という一点に、すべての集中力を注ぐ。
気づけば30分。
指先は痛いし、テーブルの上はカスだらけ。
それでも、つやつやの中身が見えた瞬間の達成感といったらない。
登山と同じ種類の満足感。
問題はそのあと。
「栗ごはん?渋皮煮?スイーツ?」
選択肢が多すぎて、もはや試験問題。
でも、どんな形になっても、栗は“手間が味になる”食べものだと思う。
少しの忍耐と、ちょっとの欲。
それを楽しめる人だけが、秋を本気で味わえる。
剥いた本人のみが、どんな形にするかの選択権を有している。
——今年もちゃんと、殻ごと季節がやってきた。







