工場跡地は土壌汚染の調査が必須?売却前にやるべき対策とチェックポイント
工場として使われていた土地は、土壌汚染のリスクがあります。実際、工場解体後に調査した結果、土壌汚染が発覚したというケースは少なくありません。
目に見えない汚染が周囲の健康や資産価値に影響を及ぼす可能性もあるため、早期の対策が不可欠です。
工場跡地を安全に活用するために知っておきたい土壌汚染のリスク、土地の調査方法や費用について理解しておきましょう。
工場跡地における土壌汚染の基礎知識
工場跡地は土壌汚染のリスクが高く、健康被害や生態系への悪影響などの恐れがあります。一見問題がなさそうな土地でも、調査によって土壌汚染が発覚したというケースは少なくありません。
まずは、工場跡地が土壌汚染の可能性が高いといわれる理由や、土壌汚染による人体への影響などについて解説します。
土壌汚染とは
土壌汚染とは、文字通り土壌が有害物質によって汚染された状態のことです。土壌汚染は大きく以下の2パターンに分けられます。
- 人為的原因によるもの
工場からの排水に含まれる有害物質や、適切に処理されず地下に浸み込んだ有害物質などが原因で、土壌が汚染された状態 - 自然由来のもの
土壌が岩石や堆積物に含まれるヒ素、鉛、フッ素、水銀などを多く含んだ状態
工場は性質上、有害物質が発生しやすい環境です。有害物質を含んだ排水や、固体から溢れて地表に落ちた有害物質などが地下に浸み込み、土壌汚染を招く恐れがあります。
土壌の汚染は蓄積性が高く、放置して自然に改善される可能性は低いといわれています。先述のように工場からは有害物質が流出しやすいため、工場が解体されてからの年数に関係なく、工場跡地は土壌汚染状態のリスクが高いのです。
土壌汚染による人体への影響
工場跡地およびその近辺は、住宅地などと比較すると体内に有害物質が入るリスクがあります。有害物質を体内に取り込んでしまう原因は以下のとおりです。
- 汚染された土に触れて、皮膚から有害物質が入る
- 汚染された土が口に入る
- 土から大気中に出た有害物質を吸いこむ
- 汚染された土が雨によって川に流出した後、その川に入る
- 汚染された土で育てられた農作物を口にする
直接的な健康被害以外だけでなく、悪臭や地下水の油膜など、ほかにもさまざまな悪影響が考えられます。また、売主は土壌汚染が判明している場合、買主に説明する義務があるため売買契約前に必ず伝えましょう。
汚染された工場跡地でも売却はできる?
結論として、土壌汚染が残っている場合でも、法令で除去が義務付けられていない限り、土地の売却は可能です。
ただし工場跡地をはじめ、有害物質を使用していた場合など土壌汚染のリスクが高い土地は、「土壌汚染状況調査」が義務付けられています。調査義務がなくても、調査を行わずに土地を売却し、後から汚染が発覚した場合は損害賠償請求を受ける恐れがあります。
工場跡地での土壌汚染の調査方法と調査義務
保有している土地が工場跡地の場合、調査義務が生じるケースがあります。土壌汚染の調査が必要になるケースや、土壌汚染の方法について詳しく見ていきましょう。
なお、前述のように汚染された土壌は人体に悪影響を及ぼす恐れがあります。調査には専門知識や技術も必要のため、ご自身による現地調査はおすすめできません。専門家に調査依頼をするほうが確実です。
土壌汚染の調査が必要になるケース
土壌汚染の調査が必要になるケースは以下2つのパターンに分けられます。
- 土壌汚染対策法で定められた調査義務の発生条件を満たす
- 調査義務はないものの土壌汚染の恐れがあり、売却後に土壌汚染が発覚して損害賠償請求をされる可能性がある
すべての工場跡地に土壌汚染の調査義務があるわけではありません。ただし、土地の売却後に土壌汚染が発覚すると、契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及される恐れがあります。
損害賠償請求のリスクを回避するため、売却など取引を行う前に土壌汚染の調査を行うのが一般的です。
土壌汚染対策法で定められた調査義務が発生する条件
土壌汚染対策法とは、土壌汚染の状況把握や土壌汚染を原因とした健康被害の防止に関する措置を定めた法律です。土壌汚染対策の実施および国民の健康保護を目的としています。平成14年に成立された法律で、すでに複数回にわたり改正が行われています。
土壌汚染対策法において、土壌汚染の調査義務が発生する条件は以下の3つです。
- 有害物質使用特定施設の使用を廃止したとき
- 一定規模以上の土地の形質の変更の届出の際に、土壌汚染のおそれがあると都道府県知事等が認めるとき
- 土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあると都道府県知事等が認めるとき
引用:土壌汚染対策法の概要 4
有害物質使用特定施設とは、水質汚濁防止法第2条第2項の特定施設のことで、有害物質の製造や使用、または処理する施設が該当します。
1の通り、有害物質使用特定施設の使用を廃止した際は、法律により土壌汚染の調査義務が生じます。工場が撤去されて跡地となってから長い期間が経過している場合でも、過去に調査が実施されていなかったり、調査記録が残っていなかったりするケースもあります。
そのため、工場跡地のように土壌汚染のリスクがある土地の場合、売却前に土壌汚染の調査を行うのが一般的です。
土壌汚染を専門家に依頼して調査する方法
土壌汚染調査は危険性が高い上に専門知識や技術が求められるため、専門家に依頼して行うのが一般的です。
土壌汚染調査の方法として複数の選択肢があり、それぞれ費用が異なります。調査方法ごとの費用の相場は以下のとおりです。
調査方法 | 特徴 | 費用 |
地歴調査 | 土地履歴に関する情報を集めて土壌汚染のリスクを調べる方法。書類上の調査であり、実際に汚染されているかまでは調査しない | 10万円~30万円程度 土地の広さ、調査に用いる書類の数、役所へのヒアリングの有無などによって変動 |
表層土壌調査・土壌ガス調査 | 土地の表面から深さ50cmまでの土壌サンプルを採取し、有害物質の有無や濃度を調査する | 調査地点ごとに20万円~60万円程度 特定有害物質の使用履歴の有無、調査地点の形状、コンクリートやアスファルトの有無などによって変動 |
ボーリング調査 | 専用の機械を用いて土地の深くまで採掘を行い、土壌サンプルを採取して調査する | 1ヵ所につき20万円~80万円程度 深さ、調査の本数、調査対象とする有害物質の数などのさまざまな要素によって変動 |
まずは地歴調査を行い、土壌汚染のリスクが高いと考えられる場合に表層土壌調査やボーリング調査を依頼するのが一般的です。
不動産に関するお問い合わせ工場跡地を売却する前にチェックするポイント
工場跡地は土壌汚染のリスクが高いため、慎重な対応が求められます。工場跡地を売却する前にチェックすべきポイントを4つご紹介します。
工場で取り扱っていた特定有害物質
土壌汚染のリスクを適切に把握するためにも、まずは工場で取り扱っていた特定有害物質を確認しましょう。依頼する調査内容や調査対象とする有害物質を明確化するために必要です。
工場で取り扱っていた有害物質が不明なままでは調査すべき範囲が膨大になり、費用が高額になる恐れがあるため注意しましょう。
土壌汚染が発覚した場合の対処法
調査によって土壌汚染が発覚した場合の対処法についても知っておく必要があります。売主側が実施する対応として以下が挙げられます。
措置の内容 | 概要 |
地下水の水質測定 | 地下水汚染が生じていないかを確認するために、定期的に地下水の水質測定を行う |
汚染土壌の封じ込め | 土壌溶出量基準を超過する場合に、汚染された土壌や地下水が区域外に流出しないように封じ込める |
汚染土壌の除去 | 汚染土壌を採掘し搬出する、または採掘せずその場で浄化する方法により汚染を除去する |
盛土 | 土壌含有量基準を超過する場合に、直接摂取のリスクを防止するため、厚さ50cm以上の盛土を行う |
参考:土壌汚染対策法の概要、土壌汚染対策法に基づく措置の概要
実施する対処法の内容は土地の状態によって異なるため、詳しくは専門家にご相談ください。
売主の責任範囲やリスク
土壌汚染のある土地を売却した場合、契約不適合責任に問われる可能性があります。
契約不適合責任とは、引き渡された目的物が契約内容に適していないとみなされる場合に売主が買主に対して負う責任です。以下のいずれかに該当する場合、契約不適合責任による損害賠償請求を受ける恐れがあります。
- 土壌調査の法的義務があるにもかかわらず対応を怠っていた
- 売主が土壌汚染の事実またはリスクを知っていた
- 土壌汚染がないことを前提とした契約内容である
なお、個人間での売買契約であれば、契約不適合責任を負わないという免責特約が可能です。
ただし免責特約を締結した場合でも、上記のいずれかに当てはまる場合は特約が無効とされる恐れがあります。また、契約不適合責任には当たらなくても、債務不履行責任や不法行為責任を追及される可能性が考えられます。
不安な場合は不動産会社に買取を依頼する
土壌汚染のリスクや売却後のトラブルについて不安がある方は、個人ではなく不動産会社に買取を依頼するのも1つの方法です。土壌汚染の調査や対策工事を行なってくれる会社を選べば、売主側の負担が最小限で済みます。
買取は仲介での売却より2〜3割ほど安くなる場合がありますが、リスクの高い土地をトラブルの心配なく手放せるのは大きなメリットです。
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