工場跡地の利用事例を紹介|利活用時の課題から見る利用しやすい跡地とは
工場の敷地は広大であるケースが多く、再利用の選択肢は実にさまざまです。しかし、工場跡地の利用は地域の発展や経済活性化に寄与する可能性があるため、多くの問題をクリアしなければなりません。
近年実施された工場跡地の利用事例を紹介するとともに、利用しやすい跡地についても解説します。
工場跡地の利用事例
近年実施された工場跡地の利用事例を紹介します。
企業名 | 工場名 | 工場所在地 | 転換施設種別 | 概要 |
---|---|---|---|---|
日本たばこ産業 | 仙台工場跡地 | 複合商業施設 | 複合商業施設 | 大和ハウス工業が2007年に一般競争入札で跡地を取得。商業施設と戸建住宅街で構成する複合開発プロジェクト。 |
キリンビール | 広島ブルワリー | 広島県府中町 | 商業施設 | 樽詰生ビール(ラガー、一番搾り)を生産するミニブルワリー施設を2010年に製造を終了させ、跡地は隣接するイオンモール広島府中ソレイユの施設拡充に利用。 |
小松製作所 | 小松工場 | 石川県小松市 | 研修センター | 大型プレス機械を生産する施設で、国内生産体制の再編により閉鎖。跡地は「こまつの杜」として2011年より自社利用。社員の 研修・教育センターや、一般開放されている記念館・体験学習施設などがある。 |
市光工業 | 旧大泉製造所 | 群馬県大泉町 | 物流施設 | ハナマルキが2017年に市光工業・旧大泉製造所の跡地と既存建屋を取得し、新物流センターを整備。 |
鉄道・輸送機構 | 旧国鉄操車場跡地 | 群馬県高崎市 | 工場 | 原田が跡地を取得。2012年にラスクなど洋菓子生産の新工場を建設。 |
四国ガス | 松前工場跡地 | 愛媛県松前町 | メガソーラー発電所 | 工場跡地の一部1万2,000㎡を活用し、メガソーラー発電所を建設し、2012年より稼働。 |
アサヒビール | 西宮工場 | 兵庫県西宮市 | 公共施設 | 2012年に操業を停止。民間事業者に工場跡地を一括売却したあと、市が3万8,000㎡を取得。跡地には総合病院を建設。 |
神栄 | 綾部工場の一部 | 京都府綾部市 | 社会体育館施設 | 計測機器の生産を手がけている工場の一部を1億9,500万円で綾部市に売却。スポーツや文化活動の拠点として2019年に「あやべ・日東精工アリーナ」を設立。 |
ユニチカ | 豊橋事業所跡地 | 愛知県豊橋市 | 戸建て住宅地 | 2015年に工場閉鎖。跡地は積水ハウスへ63億円で売却。敷地全体を活用した「ミラまち」を計画。 |
工場跡地の特殊な利用事例
経済産業省の「平成27年度地域経済産業活性化対策調査」を参考に工場跡地の特徴的な利用事例を2つ紹介します。
工場跡地を商業施設・住宅・文化施設などとして活用
長野県上田市の「日本たばこ産業工場跡地」を商業施設などに転換利用した事例を紹介します。
経済産業省「平成27年度地域経済産業活性化対策調査」 より
2005年3月に日本たばこ産業(JT)が操業停止して建屋を撤去し、2006年2月JTが開発計画案を作成し市に提出しました。
跡地は上田駅から徒歩5分程度と近く、中心市街地の一角であり、市民の集まる場所として開発計画を検討しました。
開発計画案において、地元との公聴会を市が主導で開催し、商業施設に対しては駅前の地元商店街から強い反発がありましたが計画は進められました。
跡地を活用した結果、中心市街地に賑わいが出たうえに、市の施設も建て替えができました。また、住宅ゾーンでは約130戸の戸建てを計画し、7割は市内での転居でしたが、3割の市外からの転入がありました。
【コンパクトシティ】工場跡地を小学校・幼稚園・保育園として活用
香川県観音寺市の「倉敷紡績(クラボウ)工場跡地」を小学校などに転換利用した事例を紹介します。
経済産業省「平成27年度地域経済産業活性化対策調査」 より
2008年6月にクラボウは海外関係会社からの調達で低コスト化を図るために観音寺工場を閉鎖しました。
会社側としては、跡地活用について計画がほとんどなく、更地にして転売したいと考えていたため2〜3年後に更地にしました。市では2011年度の「観音寺市中心市街地地区都市再生整備計画」(コンパクトシティ化)の一環としてクラボウ跡地の活用を考え、9億円で購入しました。
地域の学校統廃合と併せて公共施設の設置も検討し、地域の循環道路整備や中心市街地の活性化を含めた計画を立てました。
工場跡地には、小学校と幼稚園を統合して、新たな校舎を建設しました。工場跡地が広いために地域の幼稚園と保育園も統合して立地させています。なお、跡地売買には土壌汚染問題やその他、用地における問題をすべて企業側が解決しました。
利活用時の課題から見る利用しやすい跡地とは
工場の面積は広大であるため、跡地の活用方法は多岐にわたります。しかし、規模が大きいがゆえにさまざまな問題を抱えます。では、利活用しやすい工場跡地とはどのような土地なのでしょうか。
工場跡地の利活用時には、以下の4つの課題があります。それぞれについて解説します。
- 規模別
- 地域別
- 利活用段階別
- 関係機関別
規模別の課題
近年は比較的小規模な土地へのニーズが高いため、大規模工場跡地をそのまま利用できる企業は多くありません。分割再整備する場合にも分筆費用や区画道路、ライフラインなどの費用を誰が負担するかが課題となります。
また、大規模な跡地に新たな工場や商業施設を建設する際には、近隣住民の了解を得る必要があります。中小規模の工場跡地の課題は、自治体が企業から個々に跡地の情報を取得しなければいけないことです。
なぜなら、中小規模の工場跡地は住宅と異なり回転率が低く、不動産会社が労力コストに見合った手数料を得られないため仲介・斡旋をあまりしていないからです。
地域別の課題
地方圏の人口の少ない地域では、労働力確保が難しいため企業の新規立地の需要がありません。また、土地需要そのものがなかったり、市の中心部から離れ交通の利便性が低かったりして跡地活用が困難な場合もあります。
大都市圏では、民間企業ベースで商業施設やマンションなどに転換される場合が多いため、いかに自治体や住民の意向を土地利用に反映させるかが課題です。住居近隣の工場跡地は、周囲の環境に配慮しながら活用しなければいけません。
利活用段階別の課題
跡地情報を取集する際は、全国の情報が一元化されていないため企業や自治体がニーズにあった跡地を探すのに多くの労力や時間を費やします。
また、用地面積、建屋面積、インフラなどの多種多様な条件をクリアしなければならず、うまくマッチングできないケースが多いです。
土地や跡地の利活用時においては、専門的な事柄が多く、中小企業が計画・実行に移すノウハウを十分に持っていません。自治体に相談しても、担当者間で知見にばらつきがあり対応が難しいケースもあります。大規模跡地の活用では、開発協議や許認可の取得に時間がかかる点も課題といえます。
関係機関別の課題
工場の跡地活用には主に「跡地所有者」「跡地活用者」「自治体」の3者が関係します。それぞれの課題は以下のとおりです。
跡地所有者
土壌汚染対策や、老朽化または旧耐震の工場建屋の撤去などの費用負担が課題です。また、工場跡地のPR方法も考えなければいけません。地方圏では、地元自治体の支援を得ることが特に重要です。
跡地活用者
跡地を活用する際に、土地利用転換や工場用地再整備の開発許可などの行政手続き、工場全体に適用されている法規制(たとえば石油コンビナート等災害防止法)をクリアすることが課題です。
また、工場建屋を利用する場合は消防法、建築基準法などへの対応が必要となる場合があります。地域への活用計画の説明と理解を得ることも必要です。
自治体
企業間で工場跡地の取引が成立し、自治体の意向が反映しない土地利用となる場合があります。特に大規模工場跡地の利活用は、地域経済社会に与える影響が大きくなります。
しかし、専門的知見が自治体によってばらつきがあったり、人的リソースが限られていたりするため、跡地の活用をうまく支援できないことが課題です。
利活用しやすい工場等跡地とは
前述した課題から、利活用しやすい工場跡地は以下のケースになります。
- 中小規模である
- 中心街から跡地までのアクセスが整っている
- 跡地周辺からの労働力が確保できる
- 自治体と協力し跡地のPRが行える
- 近隣住民から理解が得られる
- 環境対策や建屋撤去の費用を負担できる
- 地域のニーズとマッチしている
ケースに合致していても、工場等跡地を利活用する際にはいろいろな条件があるため、状況に合わせた対策が必要です。先述したとおり、不動産会社は工場跡地の仲介・斡旋を積極的に行っていません。
プロに相談したいときは、工場跡地を積極的に取り扱っている会社に問い合わせをするようにしてください。
工場跡地の売却に関するお問い合わせ